『君のクイズ』小川 哲(著)の概要について軽く紹介
この本のテーマやジャンルについて
『君のクイズ』は、クイズプレーヤーを題材にしたミステリー作品で、知的エンターテインメントとヒューマンドラマが融合した作品。
主なテーマは、「知識」「記憶」「真実」についての探求かな。
ミステリー要素について
- 対戦相手がどのようにしてクイズに答えたのかという謎を追うプロセスが、推理小説的な展開になっている
知的エンターテインメント要素について
- クイズの世界という独自性のある舞台だから、一般人には理解できないクイズプレイヤーの思考回路が出てきて新鮮
ヒューマンドラマ要素について
- 主人公が過去の自分や対戦相手と向き合い、自己や他者の内面を掘り下げていく過程が描かれている
あらすじ
クイズ番組の賞レースQ-1グランプリに参加した主人公、三島。優勝賞金1,000万円をかけたクイズ番組。
決勝戦で優勝が決まる最後の一問で、対戦相手はもう間違えられない状況であり、三島は優位だった。最終問題が読み上げられる中「問題・・・」そして、対戦相手は問題文を一文字も聞く前にボタンを押し、まさかの回答、正解。そのまま優勝してしまった。
その事件は【やらせ】か、回答でき得ることだったのか?番組は世間を騒がせたことを謝罪、優勝者は優勝を辞退したが真相は不明のまま。そんな世間を騒がせた話題も時間の流れとともに風化しつつあったが、三島はその謎(クイズ)を説くべく真相を調べる。
主要なキャラクター
三島玲央
本作品の主人公。学生時代からクイズ研究会に属する。クイズのイベント、テレビ番組の常連。クイズと共に生きる。
本庄絆
Q1グランプリ決勝の対戦相手。超人的な暗記力を持つタレント。端正な容姿と、優れたタレント性がある。クイズプレーヤーとしては未熟な面もあるが、時折神業的な正解をする為カリスマ性があり、熱狂的ファンがいる。
坂田
Q-1グランプリ総合演出。【超人丸】など人気のクイズ番組を手掛ける。
私が『君のクイズ』を読んだきっかけ
急に関西弁でごめんな。(読んだきっかけは)あんま覚えてへん。本は書籍派やけど、ミニマリストやから買わへんねん。そんで図書館でいつも借りてんねやけど、予約するやん。
たぶん予約数の上位とかやってん。で、何か月も待つやん。借りれる頃には何の話やったか予備知識なくなってるからさ?
この本はこんな人におすすめ
読者層
難解な表記はないし、小学生から読めるのではないか。10代~40代くらいまで楽しめるかと思う。現代のテレビ、youtube、オンラインサロン、SNSを身近に感じている者であればわかる感覚かなと思う。
読みやすさ・難易度
読みやすい。ページ数、文字数もさほど多くない。難解な語彙もない。
現代が舞台で、登場人物も多くない。特殊な環境の登場人物もいない。すぐに読める(読もうよ)。
じゃあ、ここから下で考察に入っていくから、まだ未読の人は迷ってないで先に読んでな!後悔しないから…。
私の『君のクイズ』考察
事件の概要
優勝賞金1,000万円をかけたクイズ番組。第1回Q-1グランプリ。7〇3×(7問先取で勝利、3問誤答で敗北)のストイックなクイズ形式。通常のクイズ大会では高額な優勝賞金が出ることがないクイズ競技の世界において、何としても優勝賞金が欲しい主人公、三島玲央。
特殊な世界やもんな。そら優勝賞金欲しいわ。ストイックにクイズに向き合ってきたんやもん。それやから余計に、正統派な方法で稼げたらこんな名誉なことないよな。
対する決勝の対戦相手は、丸暗記が得意なだけ、容姿端麗でテレビ慣れしているだけのタレント、本庄絆。(少なくとも初めの印象は。)
だけ・・って、悪意のある言い方でごめんやで。妬みもあるやんか。ストイックに競技クイズやってきたもんからしたら下に見る部分もあるやんか。
三島の調子はとっても良かった。6問正解で本庄と並んでいたが、相手は既に2問誤答していて、もう間違えられない状況。必ず勝てると確信していた。
決勝の最終問題にて、「問題・・・」(まだ1文字も問題文を読んでいない時点)で本庄絆はボタンを押し、会場があっけにとられる中、解答。それが、しかも正解。生放送のため現場は騒然としながらも、本庄絆は優勝となり番組を終える。
そして世論は、あからさまにわかる【やらせだ!】という派。本庄絆なら神業的に可能だという【本庄絆神格化】派に2分される。
果たしてどちらなのか?
番組は世間を騒がせたことを詫び、本庄絆は優勝賞金、トロフィーを返上し雲隠れしてしまう。番組に携わった制作側や本庄絆に直接連絡をするが真相は教えてもらえなかった。
クイズの解答は、本庄絆の地元にあるクリーニング・チェーン店、地元でしか流れていないCMソングがヒントになった店の名前だった。仮に最後まで問題文を読んでいたとしても、三島にはわからない問題だった。本庄が問題文を知っていたとしても、わざわざ【やらせ】を疑われる【0文字押し】をする必要はなかった。
問題文を予測できたとしたら、それは魔法なのか?ただ、本当のことを知りたかった。
クイズ競技経験者でしかわからない競技クイズのテクニック、独自の考察を元にこの難問クイズに挑む。
序盤から、三島は本当にクイズを愛し、真摯に取り組んできた人なんやなあってわかる。普通なら、まっさきにやらせを疑うけども、正当に答えない、もしくはそれらしく答えないなんて考えられないという風である。
クイズの正解が自己肯定感に繋がる?クイズと共に生きる三島
これまでクイズと共に生きてきた三島。クイズに出会ってからは、今見えているもの、体に触れるもの、聞こえているもの全てがクイズに変換されていた。クイズを通して人を知り、社会を知り、経験して成長していく。
正解できたクイズには、何かしらの人生の記憶が共にあった。
父の書斎に収まりきれない本が自分の部屋にあった、その本のタイトル。兄がこっそり聞いていた深夜ラジオ。彼女の好きだった日本刀(正確には日本刀を擬人化したゲーム)。東日本大震災の時に解いていたクイズ。いつも人生のそばにクイズがあった。
ちょっと気持ちはわかる。本でも漫画でもアニメでも映画でも音楽でも何でもいいけど、心に残るところとか記憶に残るところって、自分の人生の何かにひっかかるから印象に残ってるって感覚あるもんな。それが三島はクイズってわけやし、普通のひとよりもっと身近なもんやったんやろな。
そんな生活を送っているだけに、クイズ=人生。クイズに正解をすること=自分の人生は間違っていないと肯定されること。に等しい感覚を持っていた。
ちょっと極端すぎるよな。ここまできたら怖いけど、それやから必死に人生を肯定する作業(クイズの正解)が必要やん。って気持ちに取りつかれる。
しかし、正解に固執することが弊害になっていたこともある。誤答を恐れ、早押しクイズに押し負けていた。予選のペーパーテストでは優秀でも、対人戦で押し負ける。『答えが違っていたら恥ずかしい』気持ちが邪魔をしていた。テストでいうと空欄でテストを終えるようなもの。クイズに答えないのはもったいないし、恥ずかしいのは、誤答することより、恥ずかしがって何も答えないこと。恥ずかしいために自分の可能性を閉ざすことがもったいない。そう気づいてからは誤答を恐れず、結果も残すようになった。
かといって、むやみに間違ってはいけない。クイズに答えるだけの知識は勿論のこと。クイズには【確定ポイント】がある。問題文を読み進めて行くうちに問題文の可能性が絞られていくが、問題文が確定するポイントがある。さらに、その手前で押し勝ち、読み手の次の口の形やわずかな音漏れを見逃さない、聞き逃さないで問題文を推理、記憶から答えを導き出す。それが最も美しい押しなのだ。
こういう風に、自分の美学、価値観が形成されていく。ちなみに私は全くわからん。テクニックを駆使して勝ちたいみたいなこと。何も争いたくないねんけど、こういう人らがいるっていうのはリアルにいるやん。納得しかない。
本庄絆にとってのクイズ?
その点、本庄絆には不可解な点が多かった。【確定ポイント】ではないタイミングで押すことがあった。それはクイズ素人だからかもしれないし、クイズをしない視聴者にはわからないことではあるが、クイズプレーヤーに神業的に勝つ瞬間、本庄絆は神格化される場面があった。
それにしても三島にはわからないことが多い。一番の謎(クイズ)は、本庄がなぜ【0文字押し】で正解できたのか。この謎を解くには、本庄の過去を調べるしかないと思った。(自分が【人生=クイズ】だからね。)
ストーカーやん?ってくらい粘着質に徹底的に調べ上げる。
本庄絆の弟にも話を聞く。
ちょっとハードル高いよなあ。友人でもないのに。雲隠れ(?)失踪(?)したタレントの弟に会うとか。弟もよく了承したなって思うけど、兄のことも心配だし(?)事件の当事者だしと思って会ってくれたのかな?
弟から聞いた、本庄絆のこれまで
イケメンだし優秀だし人気者だった本庄絆だが、中学校で山形へ転校を機にいじめに遭う。不登校になったが、父がせっかくだからと資格取得を勧める。
中2で気象予報士、高1で公認会計士の資格取得。東大理三(医学部)に合格。
【超人丸】でテレビヒーローに。(歴代ノーベル文学賞受賞者を15分で100人以上答えたとか。)ともかく記憶力が超人。
そのあと、山形の同窓会に出席する。いじめた同級生を見返すためか?
・・・本庄絆にとってもまた、クイズは自己肯定感を得るためのツールであったのか?
これまた特殊な人間。能力がすさまじい人って、環境によっては【出る杭は打たれる】状態になるから。それでなくとも転校生ってなんでいじめられるんかね。私もほぼ嫌な思い出で、同窓会とか行きたくもないわ。
やらせかどうかの真相
キーになったのは、【超人丸】の超人プレイ。
実は、番組収録の前日に、出演者全員にノーベル文学賞の問題が出るって知らされていた。つまり、【やらせ】ではなかったのだ。だからといって、『こんなに一晩で人の名前覚えられるかい!!』となるけど、そこは本庄絆のすごいところ。テレビ側としても良いキャラのプレーヤーを見つけた!しめしめというところで本庄絆をスターに仕立てあげた。この話、別の出演者に聞いたんだけど、この番組はプレーヤーのキャラ作りで強引なところがあって、もめてテレビに出なくなった人だったんだ。
このあと、Q-1グランプリでも同じ総合演出、坂田のやり方としては番組の見せ場が欲しいから、出演者が答えられるであろうクイズを用意していたことに気づく。
過去の本庄絆の出演したもの(放送をカットされた問題も含めて)を確認していくと、確かに本庄絆が答えられるであろう問題が出ていた。
それは三島にとっても同様に平等に、過去に正解した問題や人生に絡めた問題が用意されていた。
同じ問題数だけ。つまり、最終問題は確実に本庄絆が答えられる問題の番だとわかっていた。
その法則に気づいたために本庄絆は山をはって正解することが出来たのだ。
最終問題については過去に本庄絆が正解した問題だったが、番組でカットされていたので三島や視聴者は初見の問題だと思っていたのだ。
あらかた真相にたどり着いた三島は、本庄絆にその推理を突きつけ、会う約束を取り付ける。
ただ、なぜ【0文字押し】だったのか、だけはわからないでいた。
いよいよ本庄の真意が明かされる!!
テレビ番組の裏側も、なんだかありそうな感じで引き込まれるわあ。
『君のクイズ』というタイトル
久しぶりにあった本庄絆は、直前にyoutubeとオンラインサロンを開設し、すでにかなりの登録者を稼いでいた。そして、真相を語る。
・・え?テレビ番組干されたタレントのやり方やん。ただでは転ばんなあ。本庄絆。
例のQ-1グランプリ最終問題は、以前にも番組で出題されたが放送でカットされた問題だった。その時、まだクイズに不慣れだった本庄がその番組で唯一答えられた問題だった。当時はまだいじられキャラの要素もあったが、タレント性抜群だと思われていた本庄が、「地元の問題しか答えられない」とMCにからかわれ、いじられた。それにカッときて、現場が変な雰囲気になったためカットされていた。
その地元は、転校でいじめられた記憶のある複雑な思いのある土地だったこともあり、冷静になれなかったのだという。その時、演出の坂田に説教され、一度はもう番組には出させられないとまで言われた。
プレーヤーたちはテレビでは過剰に演出され、利用され、望むキャラクターを演じさせられ、嫌になってテレビから遠ざかることも少なくない。
そういっても人間やんか。触れられたくないこととか、いくらかあるやんか。そんな側面が垣間見れるタレントの方が面白いと思うけどな。無難にキャラクター演じるより。なにより思いやりのない人は嫌やわ。一緒に仕事したくないな。
その後和解したが、Q-1グランプリでは、その因縁の問題を性格の悪い坂田は必ずどこかで使うと予想していたし、クイズプレーヤーに関係する問題が出ることも初めから予想しており、対戦相手のこともよく調べていた。
(クイズ競技としても腕は上げていたが、時折普通の確定ポイントでないところで正解をしていたのはそういうことだ。)
その因縁の問題が最終問題になると、【確定ポイント】になったのは、最終問題を残した時点だった。
しかし、【0文字押し】をしたのは、ずばり【インパクト】が欲しかったから。
初めからテレビからyoutubeやオンラインサロンへ移行しようとしていたため、賞金は要らないし、テレビにも未練がなかった。話題作りのための【ゼロ文字押し】。なんなら正解でなくとも良かったのだ。
真実は、やらせでもなく、魔法でもなく、三島の知るクイズでもなかった。
三島のクイズは、知識を元に相手より早く正確に論理的思考を持って正解にたどり着く競技。出題者の好む問題傾向の予測。問題の確定ポイントの見極め。それらを駆使すること。
一方、本庄にとってのクイズはビジネスツール。金儲けの手段。そのために神格化されるような演出のある早押し。
つまり、【やらせ】ではないが、【自分でやってる】みたいな感じかな。
面白いキャラクターとして本庄絆を使ってたはずのテレビが、まんまと使われていたのだ。
こんなん、そりゃ三島には、わからんわ。こんな正面からクイズに向き合って来た人間に想像できるわけないやんか。
本庄からは、youtubeで真相を語ろうと持ちかけられるが、三島は断る。
それは、自分のクイズ(人生)とは違うものだとわかったからだ。
私たちもみんな、自分だけのクイズをいつも解いているんやなあ。
どの情報を取り入れて、どの段階で人生の【確定ポイント】に気づき予想するのか。
【自分が何のクイズを解きたいのか】によって変わるわけや。
答えを経験や知識から導き出す。
自分にとってその答えは間違っていなかったとしても、誰かの人生と交差するときには、相手がどの問題に向き合って解いているのか?同じ問題を解いていれば共に人生を歩めるし、そうじゃなかったらどっちかが向き直り、同じ問題を解くのか?また別の問題(人生)を歩むのか?
主人公の三島は、最愛の彼女が解いている問題に真剣に取り組めなかった。
彼女は同棲には向いていないと訴えていたが、三島に押し切られる形で同棲を始める。やがて不眠になり体調を崩し同棲解消、別れることとなった。
もし、自分が強引に同棲していなければ、彼女を苦しめたり別れることもなかっただろう。
自分の正解が相手の正解とは限らない。現実はクイズのようで、クイズよりずっと難しい。
それでも、我慢はしていたけどちゃんと自分のクイズを提示できたのは偉いなあって思う。
自分の人生のクイズが否定されるのってめっちゃ怖いよなあ。
主人公三島みたいに、自分の美学みたいなんで生きてるのもいいし、
本庄絆みたいに戦略的にビジネスを成功させることに集中できるのもカッコいいし。
あ、言っとくけど、この書評は私のクイズ(人生)のための記憶と記録やから、事実(本の詳細な内容、作者の意図)とは違ってても堪忍してや。
私の『君のクイズ』総評
この情報社会やから、どの情報を信じたらいいんか疑心暗鬼になるやろう?やから、こんなにも世間はやらせに敏感やし、真実を知りたがる。やらせをエンタメとして商業活用する人もいれば、許さない人もいる。やけど、情報が真実だけになることなんかないよ。自分の信じたいことを信じて、自分の目で確かめて、進んでいくしかないやん?人生は誰かに決められたクイズやないし、答えも一つやないから。
社会よりも個人の思想を重視する若者世代で、共感、納得できる部分は多いだろう。クイズ競技とかいう身近じゃないジャンルから、身近なテーマに置き換えられていてわかりやすかった。若者より上の世代も新鮮な気持ちで楽しめるんじゃないかな?